エコノミークラス症候群」とは狭い飛行機の座席に長時間座っていると足の血管(静脈)内に血栓(血の塊)ができ、やがて肺動脈を塞いで、飛行機を降りた瞬間に呼吸困難心肺停止を招く病気のことです。

エコノミークラス症候群は俗称で、正式な病名は「静脈血栓塞栓症(肺塞栓症)」になります。他にも「旅行者血栓症」と呼ばれる場合もあります。
特に飛行機のエコノミークラスの乗客に発症頻度が高いため、このような俗称がつけられました。日本でも海外旅行や海外出張の人数が増えるにしたがって患者数が急増している病気で、2000年以降民間の航空会社でも本格的な対策に取り組んでいます。
飛行機
医学的には「フライト中には十分な水分を取り、適度に足を動かすことで予防可能」とされていますが飛行機で旅行や出張する機会の多い人や長時間同じ姿勢の仕事をしている人にとっては非常に気になる病気ですので、今回は詳しく説明していきたいと思います。

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エコノミークラス症候群の概要について

「エコノミークラス症候群」というのはちょっとユニークな病名ですが、場合によっては死に至るケースもあり、現在飛行機を利用することが多い先進国を中心に世界中で大問題となっている病気です。日本では2000年以降民間の航空会社でも本格的な対策に乗り出し、認知度も上がってきました。

主に狭いエコノミークラスの乗客に発症することが多いのでこのような病名で呼ばれることが多いのですが、正確には「静脈血栓塞栓症」や「肺血栓症」などと呼ばれる病気です。名前からも分かる通り、血栓(血の塊)が血管を塞ぎ、多臓器不全を起こす病気で、重症度は極めて高いと言えます。
では、この病気の概要について説明していきましょう。
人間の体を流れている血液は主に心臓や血管の収縮運動によって全身を巡るようにできているのですが、他にも重要なポンプの働きをしている部位があり、それが「ふくらはぎ」です。
地球上では重力の関係で比重の重い血液は足側にたまりやすくなります。しかし、運動(特に歩く、走る、ジャンプする)などを行うことで「ふくらはぎ」が大きく伸縮し、足側にたまりがちな血液を心臓へと押し戻しているのです。それゆえにふくらはぎは「第二の心臓」とも呼ばれています。
ところが飛行機のエコノミークラスのような狭い空間に長時間じっとしていると、ふくらはぎの筋肉を動かす機会は減り、血液は足側にたまりやすくなります。そのままの状態が継続すると血液中の悪玉コレステロール(LDLコレステロール)が血中の活性酸素や血小板と結びつき、血栓になります。この状態を「深部静脈血栓」と言います。
深部静脈血栓の状態では、急激に血栓が大きく成長しない限りショック状態に陥るようなことはありませんが、飛行機が目的地に到着してシートから立ち上がったり動いたりした瞬間に血栓が動き、肺動脈に達した時に詰まりを起こすとショック状態に陥りやすくなります。これが「エコノミークラス症候群」です
飛行機の中
飛行機は高度1万メートル以上を飛んでいるため、機内の気圧や気温をコントロールしているとはいえ、0.8気圧、湿度20%程度にしかならず、1,500m級の山頂に長時間いるのと同じ状況に置かれていることになります。
このため、体内の水分が失われやすく、血栓ができやすい体内環境にある上に機内サービスで利尿作用のあるコーヒーやアルコールを飲むことでさらに水分が失われ血栓ができやすくなるのです。
病名は「エコノミークラス症候群」ですが、長距離トラックの運転手ビジネス&ファーストクラスの乗客でも同様の症状が確認されています。
日本でこの病名が有名になるきっかけとなったサッカー元日本代表の高原選手はビジネスクラスに乗っていて、この病気にかかりました。
狭いエコノミークラスにいることは精神的なストレスも大きく、一番発症しやすい環境にあることはまちがいないのですが、同じ姿勢を長時間維持しているとビジネスクラス以上の乗客や地上でも罹患リスクは高まるので、十分な注意と対策が必要といえるでしょう。
血栓が成長して血流障害を引き起こし、深刻な健康被害をもたらす病気を「血栓性疾患」あるいは「虚血性疾患」と呼んでいます。
代表的なものには
  • 心筋梗塞
  • 狭心症
  • 脳梗塞
  • 解離性大動脈瘤
  • 閉塞性動脈硬化症
など死亡率の高い病気が名を連ねていることがわかります。したがって、エコノミークラス症候群もこれらの疾患と同様、危険度が高い病気であるという認識を持つことが重要です。

エコノミークラス症候群ではなぜ、足に血栓ができやすいのか?

エコノミークラス症候群は別名を「深部静脈血栓塞栓症」とも言います。この名称からも分かる通り「静脈」に「血栓(血の塊)」ができて、それが「肺動脈」に移動して詰まりを生じ、呼吸困難や心不全といった深刻な症状を引き起こす病気です。それゆえに「肺動脈血栓塞栓症」と言われる場合もあります。

静脈と動脈と肺動脈

ここで「血管」にまつわるちょっと面白いお話を紹介しましょう。血管は「動脈」と「静脈」に大別されるということはすでにご存知のことと思います。

  • 動脈血:動脈を流れる血液で、酸素をたっぷりと含んでいる
  • 静脈血:静脈を流れる血液で、二酸化炭素を含んでいて心臓へと送り返される
おおくのひとがこのように理解しているのではないでしょうか?ところがこれは厳密に言えば正解ではありません。血液の定義は
  • 動脈血:酸素を多く含んでいる血液
  • 静脈血:二酸化炭素を含んでいる血液
であり、血管の定義は
  • 動脈:心臓から血液を送り出す血管
  • 静脈:心臓へと戻っていく血管
となります。したがって、
心臓から肺へと送り込まれる血液はまだガス交換(二酸化炭素と酸素が交換されること)が済んでいないので二酸化炭素をたっぷりと含んでいるため「静脈血」になります。しかし、通り道は心臓から出ている血管なので「肺動脈」になります。
一方で心臓は丈夫な筋肉でできている臓器であり、激しく動くため大量の酸素が必要となります。そのため
肺でガス交換を済ませた血液の一部は心臓へと戻されます。ここでの血液の流れは肺→心臓となりこちらも酸素をたっぷりと含んでるので「動脈血」になります。ただし通り道となる血管は心臓へと向かうので、「肺静脈」になります。
このように「心臓と肺」を接続している血管については動脈(肺動脈)なのに静脈血が流れていて、静脈(肺静脈)には動脈血が流れているという例外的な認識となります。
エコノミークラス症候群では下肢でできた深部血栓が肺動脈まで移動して詰まりを起こし、深刻な健康被害をもたらす病気です。これは「肺動脈を流れている血液は静脈血である」ということを理解していないと誤解や矛盾を招くことになるので覚えておいてください。
覚えておくように指をさす医師

血栓ができる仕組みについて

血栓とは血管内にできる血の塊のことです。血栓の素になるのは「LDL(悪玉)コレステロール」です。LDLコレステロールの特徴は

  • 主に動物性脂質(ラードや牛脂など)である
  • 常温で個体(融点が高い)である
になります。人の深部体温(体の中の温度)はだいたい38度近くなので、LDLコレステロールはゲル状(半固形)から粘り気のある液体になります。また、血液中には血小板や活性酸素が含まれていて、活性酸素は不安定ですぐに他の物質と結びつきやすく、LDLコレステロールも酸化しやすい物質ですのですぐに結びつき“酸化LDL”という物質に変化します。
この酸化LDLが血栓の始まりになるのです。酸化LDLは血流にのって身体中を巡っているうちに血小板や他の酸化LDLやLDLコレステロールと結びつきどんどん成長していきます。そしてある程度大きくなった時点で血管壁にへばりつき、そこでさらに他の物質と結びつきながら成長していきます。

なぜ血栓は足にできやすいのか?

重力の関係で地球上の物質は上から下に移動する。これは常識として誰もが知るところですね。人間の体の中でもこれは同じで、血栓は下の方(足部)にたまりやすくなります。しかし、健康体であれば血液の流れに乗っているので一箇所にとどまることはありません。

ところがストレスや加齢、動脈硬化症、高血圧症などが原因で血流障害を起こすと血液中の他の物質よりも重量のある血栓は重力の法則と心臓から遠いという理由で足部にたまりがちになるのです。
それでも足にはふくらはぎという強力なポンプが備わっているので、運動するとヒラメ筋(ふくらはぎの筋肉)の伸縮によって下(足)から上(心臓)へと血液が一気に押し上げられるのですが、エコノミークラス症候群のように狭い空間の中で運動をほとんどしないでいると、足部に溜まった血栓はずっとそこにとどまることになります。
長時間同じ場所に溜まっていた血栓が、目的地に到着するなどして足を急に動かすとふくらはぎ(ヒラメ筋)が急に伸縮運動を起こし、静脈血を一気に心臓に向かって押し上げます。こうすることで下に溜まっていた血栓が一気に心臓から肺動脈に達し、そこで密集して詰まりを起こします。これがエコノミークラス症候群の発症プロセスになります。

エコノミークラス症候群の初期症状と検査について

検査をする医師

エコノミークラス症候群について臨床的な話も含めてもう少し詳しく説明していきましょう。
この病気は足にできた深部血栓が肺動脈まで移動して詰まりを起こして発症すると説明しました。したがって医学的には
「(下肢)静脈深部血栓塞栓症」+「急性肺動脈血栓塞栓症」が「エコノミークラス症候群」ということになります。また、症状としては
  • 呼吸困難
  • 心不全
  • 心肺停止
  • 意識消失
など極めて重篤な症状を起こす場合もあります。ただし、血栓がそれほど大きくない場合は全く自覚症状が出ないこともありますので、医療機関としてはエコノミークラス症候群を疑わせるような症状で来院してきたときに先ずはより重症度の高い「急性肺動脈血栓塞栓症」の方を疑って検査をします。
これは「急性肺動脈血栓塞栓症」の方が急激にショック状態となり、一刻を争う状況に陥りやすいからです。
しかし、下肢深部静脈血栓症の段階でも初期症状があります。もし、この段階で自覚症状が出ているとしたら血栓は深刻な大きさになっていると考えられます。何れにしても予断を許さない状況です。

検査について

エコノミークラス症候群の確定診断は画像診断で「血栓があるかどうか」を確認するのが決め手となります。ただ、かなり深いところにある血栓なので通常のレントゲンでは確認することができません。
もし、この病気が強く疑われるような状況下の場合

  • CT
が最初に行われ、状況に応じて
  • 肺エコー
  • 血管エコー
  • 肺動脈カテーテル法
などが行なわれます。CTは最近の医療機関ではかなり導入が進んでいますが、血管エコーや肺エコー、肺動脈カテーテル法などは高度な医療設備を整えている専門的な医療機関や大学病院、中核病院などの大病院でないと導入されていない可能性が高い検査です。
次に採血をして血液中のコレステロール値やD-Dimer(ディーダイマー)を調べます。これは血栓の原因がLDL(悪玉)コレステロールであり、血中コレステロール値が高ければそれだけ血栓ができるリスクが高まると判断されるためです。(D-Dimerについては後述)
あとは生化学的検査、血液一般検査、尿検査をして全身状態を把握します。
画像診断と血液検査で明らかな異常所見が認められなければエコノミークラス症候群で死亡するようなケースは先ずないとみてよいでしょう。多少の血栓や脂質異常であれば内服薬でも十分コントロールすることが可能です

D-Dimerについて

血管が破損すると出血を止めるために血小板やフィブリンなどの凝固成分が作用して破損箇所付近で血液凝固が起こります。

この凝固が続くと血栓となり血流障害を起こすため今度は余分な凝固成分を溶かす物質、「プラスミン」が作られます。この現象を繊維素溶解と言います。繊維素溶解で分解された血栓性物質はFDPとなり血液中に溶けて排泄されるのですが、このFDPの一つがD-Dimer(ディーダイマー)になります。
つまり、D-Dimerが血液中に多く含まれている所見は血栓の存在を示唆していることになるのです。

初期症状について

この病気では「深部静脈血栓塞栓症」の段階でも血栓の大きさによっては自覚症状が出ます。
代表的な自覚症状は

  • 片方の足だけがむくむ、あるいは肌の色が変色する
  • 冷感や痺れ、痛みがある
になります。

エコノミークラス症候群にかかりやすい人とは

トラック

エコノミークラス症候群は何も飛行機に乗っている人だけがかかる病気ではありません。長距離トラックやタクシードライバーのように同じ姿勢を長時間保っていなければならない職業についている人もなりやすい病気です。
もし、上記のような初期症状に覚えがある場合は病院でしっかりと検査をしてもらってください。放置して「急性肺動脈血栓塞栓症」にまで進展してしまうと、容体が急変して場合によっては死に至る危険性もある怖い病気だからです。

エコノミークラス症候群の治療ならびに対策方法について

検査の結果「エコノミークラス症候群」と診断された場合には直ちに治療が始まります。画像診断で血栓の程度が軽微であった場合はふくらはぎを使う「運動療法」の指導が行なわれます。

2000年以降は民間の航空会社でもエコノミークラス症候群対策に本腰を入れて取り組んでいます。シート(椅子)に座ったままでもできる簡単な対策をここで幾つか紹介していきましょう。

すぐにできるエコノミークラス症候群の対処法

座ったままの姿勢でつま先を上げ下げする:行ってみるとわかると思いますが、これだけでふくらはぎ(ヒラメ筋)は大きく動いています。これを1〜2時間おきにふくらはぎが疲れるぐらい行うとかなりの確率で予防可能と言われています。

その場で足踏み:これも足裏にうっ滞している血液を心臓に送り返すのに有効な運動です。
貧乏ゆすり:お行儀が悪いと思われがちですが、実は「貧乏ゆすり」はストレスがたまり下肢で血液が鬱滞し始めると脳から「血流改善させろ」という指令が出て無意識のうちに始まる運動だという説もあります。それだけ下肢への血流障害を解消させるのに有効な運動なのです。
こまめな水分補給:体内の水分量が減ると血液がドロドロになり凝固しやすくなります。こまめな水分補給を心がけ、血液をサラサラに維持しておきましょう。
ただし、コーヒー、緑茶、紅茶、烏龍茶、アルコール類は利尿作用があるので控えめにしておきます。
また、糖分の多いスポーツドリンクよりも無糖の水や麦茶の方が良いでしょう。
ゆったりとした洋服を着る:体を締め付けるようなファッションは血流を妨げ、エコノミークラス症候群へのリスクを上げるとされています。できるだけゆったりとしたファッションを心がけましょう。
ネクタイやベルトを緩めるだけでもかなり効果的です。

エコノミークラス症候群の治療

この病気の治療は血栓の状態によって異なってきます。

軽度な場合:血栓が小さく血流障害を起こすほどでもないと判断されれば上記のような対策法や散歩、食事指導などが行なわれます。
血栓ができやすく、初期症状が出ている場合:血栓を溶かす効果のある内服薬を処方して様子を見ます。また日常生活に関しては、上記「軽度な場合」と同様の指導が行なわれます。
肺動脈に血栓ができ始めている場合:「ヘパリン製剤」と呼ばれる薬を静脈注射して血栓を溶かします。定期的に画像診断で肺動脈や冠動脈など重要な血管の状態をモニターして血栓の状態を把握します。
注射でコントロールした後は内服薬に切り替わります。
ショック状態を起こしかけているか、すでにショック状態にある場合:肺動脈をモニター後、ただちに血栓を取り除く処置が施されます。緊急手術が適用される場合もありますし、肺動脈カテーテル法で血栓に対しヘパリンを直接投与し、柔らかくした後で取り除く手術が行われる場合もあります。
*肺動脈カテーテル法による手術は設備が揃っていれば内科系診療科(循環器内科など)でも実施可能です。
診察をうける男性

血栓予防効果がある?ナットウキナーゼとフコイダンについて

ナットウキナーゼについて

ナットウキナーゼとは納豆の粘りの元になっている成分で、フィブリン(血栓の元)ができるのを予防する効果があることが実験で明らかにされ、近年サプリメントなどで大きな話題となっている成分です。

文献等では下肢静脈血栓症、動脈硬化症、心筋梗塞、脳梗塞などの予防に良いとされていますが、これらは全て血栓性疾患なので、エコノミークラス症候群もこの病気のグループに属しています。
つまり、ナットウキナーゼはエコノミークラス症候群の予防、改善にも効果が期待できるということになります。

フコイダンについて

フコイダンは昆布に含まれている粘り成分です。こちらもナットウキナーゼ同様、血栓を予防する効果があることが実験によって明らかにされました。

この二つの成分が持つ血栓予防効果はよく似ています。(フィブリンの合成を阻害するというもの)したがって、どちらを主成分とするサプリメントを摂取しても同等の効果が期待できると思います。
しかし、どちらも近年発見され注目を集めるようになった成分ですので、臨床的なデーターが十分とは言えず、サプリメントに加工したものよりはそのまま納豆や昆布を日頃の食生活に取り入れる方がより安全、安心ではないか思われます。

まとめ

飛行機のエコノミークラスのように狭いところに長時間押し込められていると、イライラが募り血流が悪くなりがちになります。血流が悪くなると立ち上がったり動いたりした拍子にフラフラする、息苦しくなる、ドキドキする、などの危険なサインが現れ出します。

こうした状態を防ぐには日頃からネットウキナーゼを摂取しておくと良いでしょう。これはエコノミークラス利用時だけに限らず、日頃から座りっぱなしや立ちっぱなし、あるいは長距離トラックやタクシーのドライバーなど“同じ姿勢を長時間保たざるを得ない”職業の人にも同じことが言えます。“めぐりのケア”は詰まりを防ぐ最良の対策です。